大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)10497号 判決
一 請求原因1、2の事実は、原告と被告松田の間では争いがなく、原告と被告杉浦の間では、成立に争いのない甲第一ないし第四号証及び弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。
二 原告と被告松田の間では、請求原因4(一)のうち、被告松田が昭和五九年五月頃まで本件各標章と同一の標章を使用したかばん類を製造販売していたことは争いがなく、右当事者間でいずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第一三ないし第二五号証によれば、請求原因4(一)のその余の事実を認めることができる。
原告と被告杉浦の間では、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第九ないし第一二号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正を認める甲第二五号証によれば、請求原因4(二)の事実を認めることができる。
三 請求原因5(原告の損害)について
1 被告松田の得た利益相当の損害
前掲甲第一三ないし第二五号証によれば、被告松田は前記期間偽ルイ・ヴイトンかばん類を製造販売したことにより合計七六二三万九七五〇円の売上を得たこと、右期間の利益は平均すれば売上高の二割五分程度であつたことが認められるから、右期間に被告松田が得た利益の額は一九〇五万九九三七円となる。
被告松田は、同被告が販売した偽ルイ・ヴイトンかばん類の中には納品後不良品として返品されたものも相当あり、販売代金のうち半分以上は回収不能になつている旨主張し、被告松田本人尋問の結果中には右主張に沿う供述部分もあるが、右供述部分は、前掲甲号各証(被告松田の司法警察員又は検察官に対する供述調書の写し)の記載と対比してにわかに措信し難く、他に右主張事実を認め得る証拠はない。
さらに被告松田は、利益率は売上高の一五パーセント程度にすぎないと主張し、被告松田本人は、同被告が警察で述べた利益率二割五分の中には商品の運送費や梱包費が含まれておらず、営業経費や事務所の経費を控除すると、偽ルイ・ヴイトンかばん類の販売による純利益は売上高の一割弱位であると供述している。しかし、右供述部分は明確性に欠け、これを裏付ける的確な証拠もないから、にわかに措信し難い。前記認定の売上高の二割五分の利益からさらに控除すべき諸経費の存在を肯定できるとしても、その額は被告松田本人の右供述のように多額なものとは到底認められず、被告松田の得た純利益の額は一三〇〇万円を下ることはないものというべきである。
右事実によれば、被告松田は、前記本件各商標権侵害行為により一三〇〇万円を下らない金額の利益を得たものであり、商標法三八条一項により、右利益の額が原告の被つた財産的損害の額と推定される。
2 被告杉浦の得た利益相当の損害
前掲甲第二五号証によれば、被告杉浦は、前記期間に偽ルイ・ヴイトンかばん類を被告松田から合計五三一四万八八〇〇円で仕入れ、その二割を利益として上乗せして他に販売したことが認められるから、右販売によつて被告杉浦の得た利益は一〇六二万九七六〇円となり、右認定に反する証拠はない。
したがつて、商標法三八条一項により、右利益の額が、被告杉浦の前記本件各商標権侵害行為によつて原告の被つた財産的損害の額と推定される。
四 以上認定の事実によれば、その余の判断に進むまでもなく、原告の本訴請求のうち、商標法三六条に基づき被告らに対し商標権侵害行為の差止及び侵害物件の廃棄を求める請求、並びに民法七〇九条に基づき各損害の内金として、被告松田に対し金一三〇〇万円及びこれに対する不法行為後で本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年一一月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告杉浦に対し金八〇〇万円及びこれに対する前同様の日である同年同月一一日から支払済みまで前同様年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める請求は、すべて理由があるからこれを認容する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文第一ないし第五項同旨の判決及び仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、かばん類、袋物等の製造、販売を業とするフランス法人である。
2 原告は、別紙目録(一)、(二)記載の各標章(以下「本件各標章」という。)につき、それぞれ左の(一)、(二)記載の商標権(以下「本件各商標権」という。)を有している。
(一) 登録番号 第一三三二九七九号
出願日 昭和四八年三月一四日
登録日 昭和五三年五月一日
商品の区分 第二一類
指定商品 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具
(二) 登録番号 第一四四六七七三号
出願日 昭和五一年一一月九日
登録日 昭和五五年一二月二五日
商品の区分 第二一類
指定商品 かばん類、その他本類に属する商品
3 本件各標章は、原告が製造、販売する商品の表示として、国際的に著名であり、遅くとも昭和五二年当初には日本において広く認識されるものとなつていた。
4 被告らの商標権侵害行為及び不正競争行為
(一) 被告松田は、昭和五七年一〇月頃から同五九年五月中旬までの間に、本件各標章と同一の標章を使用し原告の商品に酷似したかばん類(以下「偽ルイ・ヴイトンかばん類」という。)を少なくとも合計一万七六五一個製造し、被告杉浦他多数の業者に販売し、原告の本件各商標権を侵害するとともに、故意に原告の商品と混同を生じさせ、原告の営業上の利益を害したし、今後も同様の商標権侵害行為及び不正競争行為を行い、原告の営業上の利益を害する虞れがある。
(二) 被告杉浦は、昭和五七年一〇月頃から同五九年五月までの間に前同様のかばん類を被告松田から少なくとも一万一九七七個仕入れて他の小売業者に販売し、原告の本件各商標権を侵害するとともに、故意に原告の商品と混同を生じさせ、原告の営業上の利益を害したし、今後も同様の商標権侵害行為及び不正競争行為を行い、原告の営業上の利益を害する虞れがある。
5 原告の損害
原告は、被告らの前記商標権侵害行為及び不正競争行為により、左の損害を被つた。
(一) 被告らの得た利益相当の損害
(1) 被告松田は、前記偽ルイ・ヴイトンかばん類の製造販売により七六二三万九七五〇円を下らない売上金を得、その二割五分の一九〇五万九九三七円を下らない利益をあげたから、商標法三八条一項又はその類推適用により、右利益の額が原告の被つた財産的損害の額と推定される。
(2) 被告杉浦は、前記偽ルイ・ヴイトンかばん類の販売により五三一四万八八〇〇円を下らない売上金を得、その二割の一〇六二万九七〇〇円を下らない利益をあげたから、前同様右利益の額が原告の被つた財産的損害の額と推定される。
(二) 信用毀損による無形損害
原告は、一八二四年に世界で最初の旅行かばん店としてパリに設立されて以来、極めて堅牢なフアツシヨン性に富む高級なかばん類、袋物類を販売し、名声を博してきた。原告が日本において販売する商品は、自らがフランスにおいて製造しその日本における子会社が輸入したもののみであり、これを子会社の直営店と特約店のみで販売して、品質の保持管理に努め、デザイン変更や安売りをしないことによつて、高級品のイメージを確保し、本件各標章の信用維持に努めてきた。しかるに、被告らが前記のとおり原告商品の酷似的模倣商品である偽ルイ・ヴイトンかばん類を製造あるいは販売したことにより、原告はその信用を毀損された。原告は、被告らの右信用毀損行為によつて、前記(一)の財産的損害以外に多大の無形損害を被つた。右無形損害の額は被告ら各自につきそれぞれ三〇〇万円を下らない。
(三) 弁護士費用
原告は、本件紛争解決のため原告訴訟代理人弁護士に対し訴訟委任を行い、その報酬として、被告松田の関係で二〇〇万円、被告杉浦の関係で一五〇万円の支払を約した。
(四) 合計
1 被告松田につき 二四〇五万九九三七円
2 被告杉浦につき 一五一二万九七〇〇円
6 よつて、原告は被告らに対し、商標法三六条、民法七〇九条に基づき、又は不正競争防止法一条一項一号、一条の二第一項に基づき、商標権侵害行為ないし不正競争行為の差止及び侵害物件の廃棄、並びに前記各損害の内金として、被告松田に対し金一三〇〇万円及びこれに対する不法行為後で訴状送達の日の翌日である昭和六一年一一月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告杉浦に対し金八〇〇万円及びこれに対する前同様の日である同年同月二一日から支払済みまで前同様年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告松田
(一) 請求原因1、2の事実は認める。
(二) 同3の事実は知らない。
(三) 同4(一)のうち、被告松田が昭和五九年五月頃まで本件各標章と同一の標章を使用したかばん類を製造販売していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(四) 同5(一)(1)の事実は否認する。仮に被告松田の販売した右かばん類の販売個数及び売上高が原告主張のとおりであつたとしても、右販売個数の中には被告松田が納品した後不良品として返品されたものも相当あり、また販売代金のうち半分以上は回収不能となつているので、これらを控除すると、被告松田の利益額算定の基礎となる売上高は三四九一万三二五三円となる。そして、被告松田の右商品販売による利益率は売上高の一五パーセント程度であるから、右商品販売により被告松田の得た利益額は五二三万六九八七円にすぎない。
同5(二)のうち、被告松田の製造販売したかばん類が原告商品の酷似的模倣商品であり、原告が無形損害を被つたことは否認し、その余の事実は知らない。
同5(三)の事実は知らない。
2 被告杉浦
(一) 請求原因1ないし3の事実は知らない。
(二) 同4、5の事実は否認する。